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がこせんにん

鵞湖仙人

国枝 史郎

「ポケット」1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,555 字 · 22 页

青空文庫

という本なのである。

三

その有名な妖術書の「南宗派乾流」は足利時代に、第一巻九重天だけ、日本へ渡って来たのである。第一巻九重篇だけでも、どうしてどうして素晴らしいもので、それを体得しさえしたら、どんな事でも出来るのだそうだ。

それを何うして手に入れたものか、鵞湖仙人という老人が、何時の間にか手に入れて、ちゃんと蔵っているのであった。

それを何うして嗅ぎ付けたものか、由井正雪が嗅ぎ付けて、それを仙人から奪い取ろうと、遙々江戸から来たのであった。

物語は三日経過する。

此処は天竜の上流である。

一宇の宏大な屋敷がある。

薬草の匂いがプンプンする。花が爛漫と咲いている。

鵞湖仙人の屋敷である。

その仙人の屋敷の附近へ、一人の侍がやって来た。他ならぬ由井正雪である。

先ず立って見廻わした。

「ううむ、流石は鵞湖仙人、屋敷の構えに隙が無い。……戌亥にあたって丘があり、辰巳に向かって池がある。それが屋敷を夾んでいる。福徳遠方より来たるの相だ。即ち東南には運気を起し、西北には黄金の礎を据える。……真南に流水真西に砂道。……高名栄誉に達するの姿だ。……坤巽に竹林家を守り、乾艮に岡山屋敷に備う。