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がちょう

鵞鳥

幸田 露伴

「日本評論」1929(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页

青空文庫

しかしまたたちまちグッタリ沈んだ態に反って、

「火はナア、……火はナア……」

と独り言った。スルト中村は背を円くし頭を低くして近々と若崎に向い、声も優しく細くして、

「火の芸術、火の芸術と君は云うがネ。何の芸術にだって厄介なところはきっと有る。僕の木彫だって難関は有る。せっかくだんだんと彫上げて行って、も少しで仕上になるという時、木の事だから木理がある、その木理のところへ小刀の力が加わる。木理によって、薄いところはホロリと欠けぬとは定まらぬ。たとえば矮鶏の尾羽の端が三分五分欠けたら何となる、鶏冠の蜂の二番目三番目が一分二分欠けたら何となる。もう繕いようもどうしようも無い、全く出来損じになる。材料も吟味し、木理も考え、小刀も利味を善くし、力加減も気をつけ、何から何まで十二分に注意し、そして技の限りを尽して作をしても、木の理というものは一々に異う、どんなところで思いのほかにホロリと欠けぬものでは無い。君の熔金の廻りがどんなところで足る足らぬが出来るのも同じことである。万一異なところから木理がハネて、釣合を失えば、全体が失敗になる。御前でそういうことがあれば、何とも仕様は無いのだ。