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がちょう
鵞鳥
幸田 露伴
「日本評論」1929(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页
それは、いつもの通りに、古代の人のような帽子――というよりは冠を脱ぎ、天神様のような服を着換えさせる間にも、いかにも不機嫌のように、真面目ではあるが、勇みの無い、沈んだ、沈んで行きつつあるような夫の様子で、妻はそう感じたのであった。
永年連添う間には、何家でも夫婦の間に晴天和風ばかりは無い。夫が妻に対して随分強い不満を抱くことも有り、妻が夫に対して口惜しい厭な思をすることもある。その最も甚しい時に、自分は悪い癖で、女だてらに、少しガサツなところの有る性分か知らぬが、ツイ荒い物言いもするが、夫はいよいよ怒るとなると、勘高い声で人の胸にささるような口をきくのも止めてしまって、黙って何も言わなくなり、こちらに対って眼は開いていても物を見ないかのようになる。それが今日の今のような調子合だ。妙なところに夫は坐り込んだ。細工場、それは土間になっているところと、居間とが続いている、その居間の端、一段低くなっている細工場を、横にしてそっちを見ながら坐ったのである。仕方がない、そこへ茶をもって行った。熱いもぬるいも知らぬような風に飲んだ。顔色が冴えない、気が何かに粘っている。