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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

K氏は、頭を丸刈にしたこっくりした壮年期に入ったばかりの人、吃々として多く語らず、東洋的なロマンチストらしい眼を伏せ勝ちにして居る。隻脚――だがその不自由さも今はK氏の詩情や憂愁を自らいたわる生活形態と一致させたやや自己満足の諦念にまで落ちつけたかに見うけられる。けれども、矢張り逃避の世界が、K氏をめぐって漠然と感じられる。それで麻川氏の性格や好みがますますK氏に傾倒して行くことも察せられる。それからすこしつき合って居るうちに、部厚なこっくりしたK氏の体格のどこかに落ちつきくさったそして非常にデリケートな神経が根を保っている。麻川氏は自分の屹々した神経の尖端を傷めないK氏の外廓形態の感触に安心してK氏のなか味のデリカな神経に触接し得る適宜さでK氏をますます愛好して居るのではあるまいか。

某日。――大川赫子が兄さんの大川氏と暫く別れ、近所に宿を極めてしばらく鎌倉に落ちつくのだそうだ、で、今日からK氏のモデルになり始めた。昼前から、麻川氏の部屋では大騒ぎだ。ああいう娘の存在は単調な避暑地の空気を溌剌とさせて呉れる。「荘ちゃん。」と娘に呼ばれて麻川氏も大はしゃぎだ。