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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

葉子のはっとしたのは、葉子の稚純な小説崇拝性が、その時すでに麻川氏に直面したような即感をうけた為めでもあったろうが、ほかにいくらか内在している根拠もあった。

葉子の良人戯画家坂本は、元来、政治家や一般社会性の戯画ばかり描いて居たが、その前年文学世界という純文芸雑誌から頼まれて、文壇戯画を描き始めて居た。文壇の事に晦い坂本はその雑誌記者で新進作家川田氏に材料を貰い、それを坂本一流の瓢逸また鋭犀に戯画化して一年近くも連載した。これは文壇の現象としてはかなり唐突だったので、文人諸家は驚異に近く瞠目したし、読者側ではどよめき立って好奇心を動かし続けた。なかで麻川氏の戯画化に使われた材料は麻川氏近来の秘事に近いもの――それももちろん川田氏から提供された材料だった。文壇に晦かった坂本が、さして秘事とも思わず取扱った材料は、麻川氏にとっての痛事だったとあとで坂本に云う人がかなりあった。

「そりゃあ気の毒だったな。川田君も一寸つむじ曲りだから先輩に対する自分のうっぷん散しでもあったかな、いくらか。」

とその材料を持って来た川田氏への心理批判も交って坂本は苦笑した。