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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

「君達、僕に構わずにゆっくり泳いだら好いじゃ無いか。」主人が云うと麻川氏は「つまんないからもう帰りましょう。」と矢張り麻川氏もさっさと更衣場の方へ行って仕舞った。従妹一人は無頓着に独りで、あちこち波を掻き廻して居たが、あんまり早い一行の帰り仕度に吃驚りして波から上って来た。馬車が待たせてあった。長谷からH屋まで電車もある。平生は誰でも電車へ乗る。それを帰りの馬車まで待たせてある。私は、いよいよ何事かの計劃のもとに今日の「海水浴場行」が企てられたものと直覚した。丁度、主人は更衣場の傍でA社のK部長に逢い、K氏の別荘へ来て居るT氏に逢う為め同行したので私は従妹と一緒にすすま無い馬車の同乗をして赫子や麻川氏と帰途に就いた。果して一丁程馬車が動くと赫子が口を歪め、私には顔の側方を向け、而も一番私に云う強い語気で「ふん、あれでも神伝流の免許皆伝か。」麻川氏「くどく云うなよ。」赫子「だってとうとう瞞されちゃった。」私は判った。昨日の午後、水泳の話が麻川氏の部屋で出たその時、私と赫子との説が何かで一寸行き違った。思い上っていつも座中の最得位を占めて居なければならない赫子が面白く無さそうな顔付きだった。