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わし

鷲

岡本 綺堂

岡本綺堂『鷲』。同一底本的分册已合并为一书。收入:麻畑の一夜、鰻に呪われた男、怪獣、兜、経帷子の秘密、くろん坊、深見夫人の死、雪女、鷲、マレー俳優の死。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,476 字 · 290 页

青空文庫

「いや、どうも飛んだお茶番でしたね。」と、東京の商人らしい乗客の一人が笑いながら言った。

「蛇となると、小さいのでも気味の好くないもんですよ。」と、隣りにいる一人が答えた。

「まったくあの風呂敷包みがころげ落ちて、唐蜀黍のあいだから蛇の出た時にはぞっとしました。」と、その前にいる女も言った。

蛇の噂が一としきり車内を賑わした。あの男は実際なんにも知らないらしい。あの男があんまり恐れ入ってあやまるので、しまいには気の毒になって来たなどという者もあった。新しく乗込んで来た男と娘は、熱心にその話に耳をかたむけているらしかったが、やがて男は小声でわたしに訊いた。

「蛇がどうしたのですか。」

ここでこの男と娘に就いて、すこしく説明して置く必要がある。男は十九か二十歳ぐらいで、高等学校の制帽と制服をつけていた。娘は十五、六の女学生らしい風俗で蝦色の袴を穿いていた。その服装と持ち物とを見れば、彼らは暑中休暇で郷里に帰省していて、さらに再び上京するものであることは一と目に覚られた。かれらが兄妹であるらしいことも、その顔立ちをみて直ぐに知られたが、取分けて妹は色の白い、眉の優しい、歯並の揃った美しい娘であるのが私の注意をひいた。