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おうむぐらかえくびでんせつ

鸚鵡蔵代首伝説

国枝 史郎

「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页

青空文庫

(あの女何者だろう?)

(鸚鵡蔵だけは是非見たいものだ)

鸚鵡蔵

その夜のことであった。菊弥は、鸚鵡蔵の前に立っていた。

月のある夜だったので、巾の広い、身長の高い――普通の蔵の倍もありそうな鸚鵡蔵は、何かこう「蔵のお化」かのように、朦朧と照っている月光の中に、その甍を光らせ、白壁を明るめて立っていた。白壁づくりではあったが、その裾廻りだけが、海鼠形になっていて、離れて望めば、蔵が裾模様でも着ているように見えた。正面に二段の石の階段があり、それを上ると扉であった。扉は頑丈の桧の一枚板でつくられてあり、鉄の鋲が打ってあり、一所に、巾着大の下錠が垂らしてあった。納谷家にとって一方ならぬ由緒のある蔵なので、日頃から手入れをすると見え、古くから伝わっている建物にも似合わず、壁の面には一筋の亀裂さえなく、家根瓦にも一枚の破損さえもなさそうであった。

菊弥は、扉の前にしばらく佇んでいたが(声をかけてみようかな?)と思った。でも、姉の眼や家人の眼を盗んで、こっそり見に来たことを思い出し、止めた。知れたら大変だと思ったからである。

(手ぐらい拍ってもいいだろう)

そこで彼は手を拍った。