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おうむぐらかえくびでんせつ
鸚鵡蔵代首伝説
国枝 史郎
「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页
答えない鸚鵡蔵
悲劇は、蔵の中ばかりにあるのではなかった。大竹藪の中、飯食い地蔵の祠の前にもあった。
いわば後家のようになったお篠を手に入れ、二つには納谷家の大財産を自分のものにしようと、以前から機会を窺っていた番頭の嘉十郎が、お篠をここへおびき出し――先刻菊弥が蔵の裏手で耳にした足音は、その二人の足音なのであったが、今、くどいていた。
「かりにも主人の妾へ、理不尽な! 無礼な! ……汝が汝が!」
大竹藪は、この不都合な光景を他人に見せまいとするかのように、葉を茂らせ、幹を寄り合わせ、厚く囲っていた。
「……飯食い地蔵に捧げるといって、世間の眼を眩ませ、こっそり私が持って行く食物を食べ、蔵の中で、生甲斐もなく生きている、あの化物のような旦那様より、まだまだわたしの方がどんなにか人間らしいじゃアありませんか。そう嫌わずに、わたしの云うとおりに。……あんまり強情お張りなさると、わたしは世間へ、納谷家の主人雄之進様が、長旅へ出たとは偽り、実は業病になり、蔵の中に隠れ住んでおりますと云いふらしますぞ。するとどうなります、数百年伝わった旧家も、一ぺんに血筋の悪い家ということになって、世間から爪はじきされるじゃアございませんか」