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おうむぐらかえくびでんせつ

鸚鵡蔵代首伝説

国枝 史郎

「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页

青空文庫

嬉しさ! 恋しさ! お篠は又も声限りに呼んだ。

「雄之進殿オーッ」

「お篠オーッ」

手燭の燈も消えた暗い蔵の中では、菊弥が恐怖で足も立たず、床を這い廻っていた。と、戸外から聞き覚えのある姉の声で、人を呼んでいるのが聞こえた。菊弥は嬉しさに声限り、

「お篠お姉様アーッ」と呼んだ。

壁を切り抜かれて、鸚鵡蔵の機能を失った蔵は、お篠の呼び声に答えはしなかったが、そう呼んだ菊弥の声を、切り抜かれた穴から戸外へは伝えた。しかし菊弥は心身ともに弱り切っていたので、語尾の「お姉様アーッ」というのが切れ、戸外へは――お篠の耳へは、

「お篠オーッ」としか聞こえなかった。

しかしお篠には、その声が、蔵の中で菊弥が呼んでいる声などとは思われなかった。良人が呼び返す声だと思った。

幾度も幾度も呼んで、そのつど答える良人の声に耳を澄ました。

「雄之進殿オーッ」

「お篠オーッ」

竹藪の中では、首を折って、飯食い地蔵の名に背くようになった石の地蔵尊が、嘉十郎の死骸を、なおその胴体で抑えていた。

その後の納谷家には、明るい生活がつづいた。先ず菊弥は女として育てられることになり、鸚鵡蔵と飯食い地蔵とは、その名に背くようになったところから、二つながら取り毀され、代首も真の秘密とその効用とが他人に知られた以上――知った綱五郎は殺されたにしても――保存