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たそがれ

黄昏

宮本 百合子

「婦人画報」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页

青空文庫

「どうだね?」

おくめは、眉をあげて小声で訊いた。

「いいんですって。義兄さんのお客様だから」

「…………」

おくめは、やっと、自分の後で格子をしめた。そして、狭い式台の上で、コートを脱ぎ、襟巻をたたみ、他人の客に行ったように、事変った心持で茶の間の唐紙を開けた。

ふさ子は、光った銅壺をいけた長火鉢の前に坐って、酒の燗を見ている。斜に向いた薄い膝や、細そりした鼻つきを一目見ると、とっさにおくめは、しみとおるような淋しさを感じた。

元からのこととはいえ、何故、せめて顔だけでもこっちを向き、笑って自分を迎えてはくれないのだろう。

「――お客様だそうだね」

おくめは、自分の心持を紛らすように、つぶやきながら坐についた。

「ええ、相変らず長いんでね」

ふさ子は、

「とめや、とめや」

と女中を呼んで、出来た銚子を運ばせた。

それから、徐(おもむろ)に向きかわり、

「先ずお変りなくて結構でございました」

と挨拶を始めた。

おくめは、娘ながら、気圧(けお)されるようで、調子よい返事も出来なかった。

瑞々(みずみず)しい丸髷に結び、薄すりと化粧して、衣紋を作ったふさ子の姿は、美しいと同量の威圧を与える。