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たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
お前達は、親のおかげで苦労するとお思いだろうが……阿母(おっか)さんだって、……若い時から決して楽をして来たのじゃあないよ」
ふさ子はうつむいて火鉢の灰をならし、のぶ子は、微(かすか)に涙組み、明るい茶の間の中では、誰一人口を利くものがなくなった。
おくめは、野州の有名な織屋の後取娘に生れた。彼女は十八の時、ふさ子の良人の父方の親類から、養子を貰った。二人の間は、さほど折合わない訳ではなかったが、清五郎というその養子が、山師で、何ぞというと、大掴みに家の金を持ち出しては、どこかへ失くして来た。ただ一人血統を伝えた家の後継者という責任を負わされた彼女は、子供達が三人も出来てから、離縁の相談を迫られた。家が大事と思い込まれていたおくめは、烈婦になった心持で、離別を承諾した。その代り清五郎との間に生れた息子は戸主になり、彼女の一生と子等の将来は安全に保障される筈であった。その誓約にも拘らず、老齢な祖父が死ぬと、公証人を弟に持った義祖母のつなが、あらいざらいの財産を抵当に入れて、自分の甥に受けさせた。
思いも設けない策略で家産を失ったおくめは、愕き憤って、法律に訴えた。