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たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
その時も、おくめは、云い表し難い屈辱を、世間と娘とに感じながら口では平気らしく、
「結構だとも?」
と云った。
「どうせ、姉さんなんぞは私に用のある筈もないからね。私は、これでも、お前に近くなってちょくちょく会えるのが楽しみなんだよ。
自分さえする気にならなければ、何にも、他人の家の台所なんぞをしないたってよいのだけれども――」
一つは、来てくれとも云われないのに、行くものかという心持からおくめは、一本の手紙さえ書かずに今日まで過して来たのである。
けれども、こうやって思いがけない時、のぶ子にすすめられ、懇願されて見ると、おくめの心は動いた。
行けば面倒とは知りながら、もう足掛二年会わないふさ子の面影、写真で見たばかりの初孫(ういまご)の丈一の姿が、何ともいえない感じを伴って心に迫って来た。
彼女は冷静に鎮っていた血液が、体の奥から俄に暖かく、どくどくと流れ出したような気持になった。
「行くのもよいが、また、そんな髪をして来たのかって、早速小言を聞かされるだろうね」
口では、はっきりしたことを云わないでも、おくめは目に見えて急(せ)き立ち始めた。どことなく頬の辺を上気させ、眼をせわしく動かして棚から小鉢などを取り卸す。