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たそがれ

黄昏

宮本 百合子

「婦人画報」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页

青空文庫

彼女は、母親にだけまかせて置いては、なかなか用向が通らない歯痒(はが)ゆさを覚えたのである。

「まあ、そうこれから直ぐ行くの? 勿論、行ったって構わないけれども、折角、おのぶさんも来たんだから、一緒に御飯をすませて行ったらいいでしょう」

米子は、年に於ては、のぶ子と幾何(いくら)も違っていなかった。自然、ちょくちょく日曜などに来るのぶ子に対しても彼女は、冷かでない好意を持っていたのである。

「お正月に、ゆっくり遊びに行って来たらいいだろうというのに、おくめさんは、遠慮ばかりしているのだもの」

彼女は、のぶ子を見て一寸笑った。

「――じゃあ直ぐ仕度をするといいわ、私がお膳立てはしてあげるから」

「そうでございますか?」

おくめは、始めて亢奮を包みきれない声を出した。

「それでは、真個(まこと)にすみませんが、一寸やっていただきます。直ぐ帰って参りますから。――何だろうか」

そう定(きま)ると、彼女は、ろくに米子を見てもいられない風で娘の方に向いた。

「着物を着換えて行かなけりゃなるまいか、寒いのに億劫(おっくう)だね。……髪もこんなだし、……まあ、いい。仕様がない」