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たそがれのこくはく
黄昏の告白
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,453 字 · 41 页
僕は全身の血が一時に燃え上るように感じて、いきなり枕元のピストルをとると、できるだけひそかに襖の端をあけてみた。
いくらあわてていたとは云え、蓉子がどんな女であろうと、夫のねている隣室に男を入れるはずのあるものでないくらいのことは、すぐに考え浮ぶべきなのだが、実際その時の僕は怒りに燃えていたのだった。
しかし、さすがに、襖を開けて隣室をのぞいたとたん、僕はあっと危く叫ぶところであった。
蓉子の枕元にはスタンドがおいてあって彼女がねつく時一燭光にしておく習慣だったので、その光でおぼろに不思議な光景が目に入ったのだ。なかばねぼけたような蓉子が、半身を床の上に出そうとしている。その夜具の上に半分覆面した大男が出刃庖丁をつき出しながら、小さい声で何か云っているのだ。
僕はすぐ強盗だなと感じた。いくら僕でも毎日の新聞で近頃の物騒さはよく知っている。すぐに飛び込んでやろうと身構えした時、男が不意に右手の出刃庖丁をつき出すと同時に『静かにしろ。早く金を出せ。』
というのが聞えた。それに対する蓉子の態度を、僕は実に不思議なように感じたのだ。あんなに平生しっかりしていて、どんなことをも恐れない蓉子が、まるで気を失ったように恐怖の色を現わしているのだ。