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おうそんせんせいげんこうろく
黄村先生言行録
「文学界」1943(昭和18)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,786 字 · 27 页
けれども、伯耆国の淀江村というところに住んでいる一老翁が、自分の庭の池に子供の時分から一匹の山椒魚を飼って置いた、それが六十年余も経って、いまでは立派に一丈以上の大山椒魚になって、時々水面に頭を出すが、その頭の幅だけでも大変なもので、幅三尺、荘厳ですなあ、身のたけ一丈、もっとも、この老翁は、実にずるいじいさんで、池の水を必要以上に濁らせて、水面には睡蓮をいっぱいはびこらせて、その山椒魚の姿を誰にも見せないようにたくらんで、そうして自分ひとりで頭の幅三尺、身のたけ一丈、と力んでいるのだそうで、それは或る学者の報告書にも見えていた事でございますが、その学者は、わざわざ伯耆国淀江村まで出かけて行ってその老翁に逢い、もし本当に一丈あるんだったら、よほど高い金を出して買ってもよろしい、ひとめ見せてくれ、と懇願したが、老翁はにやりと笑って、いれものを持って来たか、と言ったそうで、実に不愉快、その学者も「面妖の老頭にして、いかぬ老頭なり」とその報告書にしるしてありますくらいで、地団駄踏んでくやしがった様が、その一句に依っても十分に察知できるのであります。その山椒魚は、その後どうなったか、私も実は、それほどの大きい山椒魚を一匹欲しいものだと思っているのでありますが、どうも、いれものを持って来たか、と言われると窮します。