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くろいてちょう
黒い手帳
久生 十蘭
「新青年」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,026 字 · 38 页
のアノンセし、無智と卑しさを底の底までさらけだしたギスばった調子で、「三十五……黒……奇数……後目……」などと一週間も前に出たモンテ・カルロのルウレットの出目を読みあげていたが、頃合のところで方式どおりに「張り方それまで」と声をかけた。
夫のほうは眼玉を釣りあげてギョロギョロしていたが、首だけこちらへねじむけて「ごらんなさい。赤が十回もつづけて出ている。こんなことってあるもんじゃない。こんどは黒に崩れるにきまっています」と説明すると「黒へ五百法!」と叫び、賭けたしるしにノートへ N-500 と書きつけた。
赤が出た。
「赤が出たらどこまでも赤に乗って行く約束だったじゃありませんか。勝手にシステムを変えるからいけないんです」と細君がやりこめた。夫のほうは見るもみじめに狼狽して「システムといったって博奕のことなんだから百パーセントに正確なもんじゃない。これは負ける回数をうんと少くして出来るだけ勝つ回数を多くしてその差で自然に儲けるようになっているシステムなんだから、一回や二回負けたってたいしたことはないさ。もっともいまは勝手にシステムを変えたからいけなかった。