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くろいてちょう
黒い手帳
久生 十蘭
「新青年」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,026 字 · 38 页
だ。おれは十年やった。しかしそのおれでさえまだいっこうにわからん。君等はおれがかならず勝つと思っているかね? そんなことはあり得ないのだ。ルウレットというのはどれほどむずかしいものかその証拠をみせてやろう」そういうと妻君に「モンテ・カルロ新聞のどこからでもいいから、勝手に読んで見たまえ」といいつけた。
彼は妻君が読みあげるのを頬杖をついてきていたが、やがて無造作に「黒へ最高賭額(一万二千法)!」といった。
黒が出た。また黒へ賭けた。黒が出た。次は赤へ賭けた。赤が出た。たった三回で(資本の一万二千法を差引いて)五万法も勝ってしまった。彼は無頓着なようすで黒へ二度、赤へ二度、黒へ一度、赤へ三度……それからまた前へ戻って、黒へ二度、赤へ二度というぐあいに最高額を賭りつづけていた。
ふしぎな現象がおきていた。われわれは遅まき乍ら、ルウレットがいま黒と赤と交互に(黒2回―赤2回―黒1回―赤3回)(2―2―1―3)という秩序立ったアッパリションを飽くことなく繰り返していることを発見した。
この単純極まる反覆を十回もつづけた後、ルウレットは別な配列へ移っていた。