轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
くろいてちょう
黒い手帳
久生 十蘭
「新青年」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,026 字 · 38 页
なにか都合が悪そうだと見てとったが、それには拘泥せず「この間は失礼した。あの浅薄なやつらをたしなめてもらうつもりでちょっと詐略をしたのだが、意外な結果になって不快をかけてしまった。どうもすまなかった」と詫びをいった。
彼はあの夜のことに触れたくないようすで始終そっぽを向いていたが、唐突にこちらへ向きなおると、なんとも形容のつかぬ愁然たる面もちで、「そんなことはどうだっていい。あらたまって詫びるほどのことでもないが、おれはあの晩、異常な経験をして、そのためにまたはじめから研究をやりなおさなけりゃならないことになったんだ」といった。そうして極度の失意をあらわしながら、「哲学的な意味で、賭博をリードするシステムなんてものはありえないというが、それはたしかに真理だ。おれはあの晩愕然とそれを悟った。おれの今までの研究はなんの価値もない。この黒い手帳に書きつけた公式や法則はそれ自身無に等しいということを発見したんだ……おれはナ、あの晩夫婦の愚かな計画を思いとまらせるためにわざと負けてみせてやろうと思ったのだ。十年も研究したという男がだらしのない負けかたをしてみせたら、いかに無謀な夫婦でもルウレットで一旗あげようなんてことは思い切るだろう。