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くろねことみ

黒猫十三

大倉 燁子

「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,366 字 · 29 页

青空文庫

主人は手にしていた茶色の封筒を渡しながら、じろりと変な眼付をして、彼の顔を見た。

「急ぎだそうですよ」

無愛想に云って、部屋を出て行きながら、もう一度振り返って、彼の様子を盗み見た。その眼には明白に侮蔑の色があった。唇の辺りにも嘲笑が漂っているように思われたので、本庄は厭な気持がした。が、渡された封筒の裏を返して見ると、急に顔色を変えて魂消た。

「しまった!」

彼は思わず心で叫んだ。

それは警視庁からの喚出しであった。見る見るうちに、小鼻の上にぶつぶつと油汗が染み出てきた。辰馬久が捕ったに相違ない、さもなければ、――少女を浚った人が逃げる途中で捕ったか。何れにしても奇怪な事になったものだ。封をきる彼の指先は震えている。しかし事にも手紙は非公式の喚出状で、殊に差出人が有名な宮岡警部であったのは意外の喜びであった。警察官としては珍らしい温味のある人だとの評判も聞いている。それに都合の好い事には偶然にも同郷であった、それ等を思い廻らしてそこに一抹の光明を発見して、彼は多少元気づいた。とにかく一刻も早く出頭しよう、遅刻して怪しまれては損だ、と思って飛び起きた。