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くろねことみ

黒猫十三

大倉 燁子

「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,366 字 · 29 页

青空文庫

「そうだ。彼奴に頼もう」そう気が付くと慌てて外へ出た。外へ出てから先刻の円タクの事を思い出したが、もう車はどこにも見えなかった。彼は雨に濡れながら、逸散に馳け出した。

ぐっすり眠込んでいる友人を叩き起して、

「君、危篤の病人なんだ。直ぐ来てくれないか?」

「危篤だって? 誰が?」と蒲団から首だけ出して、眼を閉ぶったまま、眠むそうな声で訊いた。

「誰でもいい。そんな事は後で話す」

「患者は男か? 女か? 俺や、夜中に叩き起されることを思うと、医者になるのを止めッちゃいたくなるよ」

友人は渋々起きたが、よく眠っていたところを起されたので、頗る不機嫌だった。

「後で委しい事は云うよ。まあ、早く来て診てくれ。こうやっているうちにも、――手遅れになって、死んじまってるかも知れないんだ」

「君は非常に興奮してるね、――俺やちッとも知らなかったよ。君にそんな女があるたあ」

「俺の女じゃない」

「人の女を夜中に引張り込むのは怪しからんな」

「止せ。そんなくだらない事ッちゃないんだ。人一人の生命だ。冗談じゃない」

雨は小降りになったが、北風が少し寒かった。本庄は先に立って大跨で飛ぶように歩いた。