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ねずみざか
鼠坂
「中央公論」1912(明治45)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,781 字 · 16 页
小川は吭が乾くので、急須に一ぱい湯をさして、茶は出ても出なくても好いと思って、直ぐに茶碗に注いで、一口にぐっと呑んだ。そして着ていたジャケツも脱がずに、行きなり布団の中に這入った。
横になってから、頭の心が痛むのに気が附いた。「ああ、酒が変に利いた。誰だったか、丸く酔わないで三角に酔うと云ったが、己は三角に酔ったようだ。それに深淵奴があんな話をしやがるものだから、不愉快になってしまった。あいつ奴、妙な客間を拵えやがったなあ。あいつの事だから、賭場でも始めるのじゃあるまいか。畜生。布団は軟かで好いが、厭な寝床だなあ。※(「火+亢」、第4水準2-79-62)のようだ。そうだ。丸で※(「火+亢」、第4水準2-79-62)だ。ああ。厭だ。」こんな事を思っているうちに、酔と疲れとが次第に意識を昏ましてしまった。
小川はふいと目を醒ました。電燈が消えている。しかし部屋の中は薄明りがさしている。窓からさしているかと思って、窓を見れば、窓は真っ暗だ。「瓦斯煖炉の明りかな」と思って見ると、なるほど、礬土の管が五本並んで、下の端だけ樺色に燃えている。しかしその火の光は煖炉の前の半畳敷程の床を黄いろに照しているだけである。