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ねずみざか
鼠坂
「中央公論」1912(明治45)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,781 字 · 16 页
「今一つの肉は好いが、営口に来て酔った晩に話した、あの事件は凄いぜ。」こう云って、女房の方をちょいと見た。
上さんは薄い脣の間から、黄ばんだ歯を出して微笑んだ。「本当に小川さんは、優しい顔はしていても悪党だわねえ。」小川と云うのは記者の名である。
小川は急所を突かれたとでも云うような様子で、今まで元気の好かったのに似ず、しょげ返って、饌の上の杯を手に取ったのさえ、てれ隠しではないかと思われた。
「あら。それはもう冷えているわ。熱いのになさいよ。」上さんは横から小川の顔を覗くようにしてこう云って、女中の置いて行った銚子を取り上げた。
小川は冷えた酒を汁椀の中へ明けて、上さんの注ぐ酒を受けた。
酒を注ぎながら、上さんは甘ったるい調子で云った、「でも営口で内に置いていた、あの子には、小川さんもわなかったわね。」
「名古屋ものには小川君にも負けない奴がいるよ。」主人が傍から口を挟んだ。
やはり小川の顔を横から覗くようにして、上さんが云った。「なかなか別品だったわねえ。それに肌が好くって。」
この時通訳あがりが突然大声をして云った。「その凄い話と云うのを、僕は聞きたいなあ。