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あのかお
あの顔
林 不忘
線上閱讀林 不忘《あの顔(あのかお)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,813 字 · 30 頁
この方法に、お久美が簡単に同意したことは、庄吉がちょっと意外に感じたくらいだった。夫婦のあたまに同時にうかんだのが、上総の佐貫の在、百前から海へ寄った谷由浜という小さな漁村だった。先年暇をとって退って行ったが、長く上庄の女中頭をしていたおひさの故郷で、おひさの生家は、土地でも相当の漁師だった。
江戸の人は、気が早かった。翌朝早く、お久美は、出入りの鳶の者を供に、その上総の谷由浜へ向ったのだった。江戸から、二十三里のみちのりだった。
おひさが、どんなよろこびをもって、旧主家の内儀を迎えたか、それはいうまでもなかった。田舎の人の、おかしいほどの質朴さがお久美を包んで、思わず微笑まれることが多かった。風防けの松林の砂浜をへだてた、黒い板塀の一部が、おひさの家だった。さほど見ぐるしくない離家が、お久美の居室ときめられて、あらゆる歓待が用意された。漁期でないので、家にも、村にも、浜にも、微風と日光と静寂のほかは、何もなかった。それが、予想以上に、お久美のこころを休めたのだった。かの女は、一日じゅう、戦いの終ったような軽い気もちで、渚を歩いたりした。そこには、恐怖も不安も、なかった。