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おさん

おさん

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《おさん》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 頁

青空文庫

「どうするのさ」と脇に腰掛けている伊三が、囁き声で訊いた、「なにを待ってるんだい」

参太は左手でそっと、伊三の腕を押えた。伊三は黙った。

作次はまだしらふのようにみえた。伊三が半日がかりで訊きまわり、毎晩、必ずこの「吉兵衛」へあらわれて飲みつぶれる、ということをさぐり出したのだ。参太は八時ころにここへ来て酒を注文し、伊三はめしを喰べるととびだしていった。作次の来るのを見張るのだそうで、彼は自分の頼まれたことに、大きな責任と誇りを感じているようであった。参太はあまり飲めないほうだが、この賑やかな広い店の中では、舐めるような彼の飲みかたもそれほど眼立たず、ようやく二本めに口をつけたとき、伊三が戻って来て作次のあらわれたことを告げた。

「おれ外へ出てるよ」と伊三が云った、「こういうところはおれにはまずいんだ、みんな見やあがるからね、いいだろう」

参太は頷き、伊三は出ていった。

作次は壁際に並べた飯台の端に、独りはなれて腰を掛け、突出しの小皿を二つ前にしたまま、ゆっくりした手つきで飲んでいた。年は三十六七、膏けのぬけた灰色の顔に、眼と頬が落ち窪んでいた。古びた印半纒に股引、緒のゆるんだ草鞋を素足にはいていた。