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おせん
おせん
邦枝 完二
線上閱讀邦枝 完二《おせん》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 74,074 字 · 148 頁
「待ちねえ、伝さん」
長兵衛は背後から声をかけた。
「何んの用だ」
「用じゃァねえが、おかみさんもああいうンだから、晩にしたらどうだ。どうせいま行ったって、会えるもんでもねえンだから。――」
「ふん、おめえまで、余計なことはおいてくんねえ。おいらの足でおいらが歩いてくんだ。どこへ行こうが勝手じゃねえか」
「ほう、大まかに出やァがったな。話をしたなァおれなんだぜ。行くんなら、せめておれの髯だけでもあたッてッてくんねえ」
「髯は帰って来てからだ」
「帰って来てからじゃ、間に合わねえよ」
「間に合わなかったら、どこいでも行って、やってもらって来るがいいやな。――ええもう面倒臭え、四の五のいってるうちに、日が暮れちまわァ」
前つぼの固い草履の先で砂を蹴って、一目散に駆け出した伝吉は、提灯屋の角まで来ると、ふと立停って小首を傾げた。
「待てよ。こいつァ市村座へ行くより先に、もっと大事なところがあるぜ。――そうだ。まだおせんちゃんが知らねえかもしれねえ。こんな時に人情を見せてやるのが、江戸ッ子の腹の見せどこだ。よし、ひとつ駕籠をはずんで、谷中まで突ッ走ってやろう」
大きく頷いた伝吉は、折から通り合せた辻駕籠を呼び止めて、笠森稲荷の境内までだと、酒手をはずんで乗り込んだ。