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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《おばな沢(おばなさわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 頁

青空文庫

未明の霧がゆれ、誰かが坂道を登って来る、それはしだいに近くなり、やがて英之助だということがはっきりする。

藪の蔭にいる人間は身構えをし、きりきりと弓をひき絞る。英之助はなにも知らない、足もとに気をとられて、ゆっくりと登って来る、間合は絶好だ。狙いも慥かである、そして弓弦が鳴る。

「――ああっ」

節子は声をあげた。幻想はいつかのものとそっくりであるが、もの蔭にひそんでいる人間だけが違う、いま節子に見えるのは土民ではない、それは相良桂一郎であった。

「あなたは、そのとき、……戸田の死体をみつけたとき、あなたのほかに誰かいっしょにいらしったのですか」

殆んど問罪の調子でこうきいた。

「いや私ひとりでした」

「まだ暗いうちと仰っしゃいましたわね」

「そうです、ほのかに明るいくらいでした」

「そしてその矢は、戸田を射た矢は、土民のものでございましたか」

相良はぎょっとしたようにこちらを見た。節子はその眼を放さずみつめながら、たかぶってくる感情を抑えて続けた。

「いつか番所の武器庫から、弓と矢が盗まれたと聞きました、戸田を射た矢は、もしかするとそのときのものではございませんか」