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かやのおいたち
かやの生立
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《かやの生立(かやのおいたち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,632 字 · 25 頁
何処も彼処もぴかぴかと黒く光るなかへこればかりは新らしく容れられた縁の部厚な椹の風呂桶の生々しい肌の色が、白くほっかりと浮んで見えた。お湯は、近頃、お爺さんが裏の納屋の側へ掘り当てた透明な、質の好い水を、青竹の管で呼んで、潤沢に湛えたものを沸かしたのである。身綺麗なお爺さんが、只一人位ざっと済したあとは、まだほんの新湯と同じ程に澄んで居た。
「肩まで、肩まで」
と手で押えられて、かやは婆やの丸いすべすべした膝の上へ、ひったりお尻を据えてしまった。婆やは後ろ向きのかやをじっっと抱いたまま、眼を瞑って、暫らく湯加減を味って居た。
湯殿の西の窓の細い障子が少し開けてあって、廂へ搦んだ糸瓜の黄な花と青黒い葉と蔓との間から真赤な夕焼雲の端と、鼠色の暮空とが透いて見える。臆病らしい蟋蟀の声が土台の下で途切れ途切れに啼き出して、遠い裏門の辺には、野帰りらしい百姓の、太い空咳などが聞えた。明いて居た窓から、薄寒い風が、すっっと這入って来て、五分心の裸ランプが、ぼぼぼーと油煙を吐き始めた。
「ああ危な、危な、おすめさあん、早く来て呉んなさい、早く、早く」
と婆やは大仰に喚いた。