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このなつ
この夏
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《この夏(このなつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,213 字 · 13 頁
行われる食物の取引を眺めている。両手を丸めた背中の後に組んで。――
私は、荷物をフダーヤと二人がかりで細い砂利を敷きつめたプラットフォームの上まで一旦おろし、あちこち見廻してやっと見出したその赤帽に向って、頻りに手を振った。彼は、しばらく私どもの方を、意味のない眼つきで眺め、また、のっそり、弁当の売れゆきを見物し始めた。広々とした七月の空、数間彼方の草原に岬のように突出ている断崖、すべて明快で、呑気な赤帽の存在とともに、異国的風趣さえあった。
鎌倉は、海岸を離れると、山がちなところだ。私にとって鎌倉といえば、海岸より寧ろ幾重にも重なって続く山々――樹木の繁った、山百合の咲く――が、思い出されるぐらい。その山々は、高くない。円みを帯びている。それにも拘らず、その峰から峰へと絶えない起伏の重なりのせいか、或は歴史的の連想によってか、鎌倉の山は一種暗鬱なところがある。昔風な径路のついた山裾を歩いても、岩の間の切通しを見ても何か捕えがたい憂鬱めいたものが心に来る。それゆえ、鎌倉の明月の夜の景色を想うと空に高く冴え渡る月光に反し、黒く深く黙した山々の蹲りがありありと見えて来る。