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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁
「おかあさま」と咽びあげる娘の声が聞えた、「――おかあさま」
正四郎は笠をかぶり、紐をしめた。そのとき道のほうで男の声がし、濃くなった黄昏の雨の中で、二人の男がこっちを見て立停った。正四郎はすばやくうしろへさがり、二人の男は道からこっちへ近よって来た。
――なかまか。
娘のなかまかと思い、ようすをうかがっていると、男たちの娘に話しかける声が聞えた。どちらも酔っているらしい、言葉つきから察すると、馬子か駕籠舁きのように思えた。
「ねえちゃんどうしたね」と一人が云った、「こんなところにいまじぶんなにをしているんだ、旅装束でこんなところにぼんやりしていて、伴れでも待ってるのかい」
「え、――なんだって」ともう一人が云った、「もっと大きな声で云わなくちゃわかりゃしねえ、どうしたってんだ」
それからまをおいて、「おめえ家出をして来たのか」とか、「娘一人じゃあ危ねえ」とか、「おれたちがいい宿へ案内してやろう」などと云うのが聞えた。娘の言葉はなにも聞えなかったが、どうやら二人に説き伏せられたもようなので、正四郎はそっちへ出ていった。男たちは頭から雨合羽をかぶってい、一人が娘の手を取り、他の一人が傘をひろげていた。