輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁

青空文庫

ふさはじっと立っていて、それから口の中でそっと呟いた。

「お寝間から、こちらへ出て、ここが廊下になっていて」ふさは片手をゆらりと振り、なにかを思いだそうとして首をかしげた、「――廊下のここに、杉戸があって、それから」

正四郎はぞっとした。冷たい手でふいに背筋を撫でられでもしたように、肌が粟立つのをはっきりと感じ、われ知らず立ちあがって妻のほうへいった。ふさは過去のことを思いだしたのだ、と彼は直感した。その「過去」はふさを彼から奪い取るかもしれない、それを思いださせてはならない。彼はそう思って妻の肩へ手を置き、そっと囁くように云った。

「ふさ、眼をさませ」と彼は云った、「おまえ夢をみているんだ」

ふさはゆっくりと振返った。その顔はいつものふさのようではなかった。壁の表面のように平たく、無表情で、その眼はまるで見知らぬ他人を見るような、よそよそしい色を帯びていた。正四郎はまたぞっと総毛立った。

「ふさ」彼は妻の肩を掴んでゆすった、「眼をさませ、ふさ、おれだぞ」

するとふさの顔がゆるみ、全身の緊張のゆるむのがわかった。彼女はしなやかに良人の胸へ凭れかかり、いかにも安堵したように溜息をもらした。