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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《『たぬき汁』以後(あわもりものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 頁
娘は微かに泣きじゃくって、子供の頭を撫でながら、哀願に努めたのである。
「……二度と再び、藷なぞ提げ回れば承知しないぞ」
「はい」
幸運にも、彼の女は許されて、まだふるえやまぬ手で、風呂敷のこばを結んだ。電車のなかでは、藷を膝の上にのせ、無上の悦楽に耽っていたのだが、お巡りさんの一喝に逢って、心は奈落の底へ転倒した。
娘に掛かり合った事柄であるから、かれこれ私が愚痴をこぼすわけではない。この場合、
「――ああそうか。親切な親戚を持っていて、お前さんは幸福だ。だがね、藷は統制品なんだよ。まあこの小風呂敷程度から、目にもつくまいがね。この次は、遠慮した方がいいね」
こんな具合に、やさしく言って貰いたかった。大空襲の東京からの野菜の買い出し部隊の殺到で、千葉県と埼玉県では、その取り締まりに手を焼いた。そこで、一人二貫目までは黙認することに定めたのであった。
群馬県ではどうなっているか知らないけれど、子持ち女がさげて出る僅か七、八百匁程度の風呂敷など、欲をいうなら見逃して貰いたかったのである。それでもまあ、没収を受けないで娘は倖せ者の部類に入ろう。
親戚の者が、困っているのに対し、藷や菜っ葉を少しずつ分けてやるのは、日本人の美風である。