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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《ちくしょう谷(ちくしょうだに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 頁

青空文庫

九

その男の曾祖父が流罪になったのだそうで、夫婦ともこの村の生れであり、こごさはその一人娘だったのです」

自分はその娘が好きになり、暇があると訪ねていって、読み書きを教えた。娘は十六歳とは思えないほど、躯つきも気持も幼く、自分の云うことをよくきいたし、熱心に稽古もするようにみえた。ところが六十日ほど経った或る夜、こごさが木戸へ忍んで来、柵の外へさそわれたうえ、極めて簡単に肌を触れあってしまった。

九

「私は自分にその気持がなかったとは申しません、柵の外までさそいだされたのですし、拒めば拒めたのですから」老人はそっと首を振った、「――私はこごさを思い違えていたのです、躯つきはもとより、気持もまだ幼いと思っていましたが、その夜こごさが私をさそう態度は、年増女のように巧みであり能動的でした、まだ女を知らなかった私は、殆んど夢中で、こごさのするままになっていたようなものでした」

取返しのつかないことをした。悔恨は二重であった。こごさにも済まないし、木戸の同僚たちにも顔向けができない、ここはいさぎよく責任をとるべきだ。そう決心をすると、番あけで城下へ帰るなり父に義絶してもらった。