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ひやめしものがたり
ひやめし物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《ひやめし物語(ひやめしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 頁
「ああいいとも」彼は気軽に立った。
「ではどうぞこちらへ……」
女中は膳部を持って、廊下を隔てた小座敷へ案内した。今しがたまで老武士のいた部屋である、もちろんきれいに片付いて、敷物も直してあった。女中が向うの物を運び終り、酒の注文を聞いて退ると、大四郎は敷物に坐ってまわりを眺めた。前の座敷より遙かに上等である。床間には誰かの消息を茶掛に仕立てた幅が懸けてあり、小さな青磁の香炉からは煙が立っていた。違い棚の船形の籠に若い葦を活けたのを見ながら、「これは儲けものをした」などと呟いていた彼は、やがて膝の下になにか固い物が挾まっているのに気がついた。膝をどけてみると敷物の下らしい、捲るとそこに紙入があった、古渡り更紗の高価な品のようである。
――客が忘れていったんだな。
彼はそれを脇に置いて、また盃を取上げた。間もなく女中が酒を持って来たので、こんな物があったと出してやると、女中は困惑したようすで取ろうとしなかった。
「それでは明けて見るから立会って呉れ」
なにげなくそう云って、中を検めた。金もかなりあるようだが、それには手は付けず、名札の入っているのをみつけて取出した、それには中川八郎兵衛、堤町と書いてあった。