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もののかげ
ものの影
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《ものの影(もののかげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,794 字 · 18 頁
池、といっても、台地の裾から湧き出る水がただ広くたまってる浅い沼で、その片側、道路ぞいに、丈高い葦が生い茂り、中ほどに、大きな松が一本そびえている。そのへんを、俗に一本松と呼ばれていて、昼間は田舎びた風情があり、夜分はちと薄気味わるい。
この一本松のところを、或る夜遅く、島野彦一は通りかかった。焼酎にしたたか酔って、頭脳はからっぽ、足は宙に浮きがちだった。微風もなく、夜気は冴えていた。
松の近くまで来て、彦一ははたと足を止めた。なにか、妖気に触れたかのような感じである。
道路からそれて、葦の茂みの中に、いや、茂みの表面に、和服姿の少年らしい人影が立っていた。月の光りはないが、星明りなのか、透いて見える薄暗がりに、その人影がくっきり浮いていた。彼は、彦一がやって来るのを認め、道を避けて佇み、通りすぎるのを待ってるのか、或るいは、出会いがしらに、ひょいと横へ退いたのか。それはとにかく、足音一つせず、葦の葉擦れの音もしなかった。葦の茂みはひそと静まり返っていて、その表面に、人影だけが、何の厚みもなく、紙のように平べったく、浮き出してるのである。
とっさに、彦一はぞっとした。