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わがまち
わが町
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《わが町(わがまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 93,840 字 · 186 頁
祖父が次郎のところへ掛け合いに行ったせいだろうと、すごすご帰った時の悲しみが、降るようにして、いま胸へ落ちて来た。
が、他吉は上機嫌で、
「雨が降っても、見合いの場所は地下鉄のなかやさかい、濡れんでも良え。どや、お祖父やんは抜目がないやろ?」
「…………」
他吉は高下駄をはき、歩きにくそうであった。
ところが、難波駅の地下へ降りて行くと、さきに来て地下鉄の改札口で待っていたのは、思いがけぬ次郎で、傍には鶴富組の主人が親代りの意味らしく附き添うていた。
君枝はぼうっとして、次郎が今日の見合いの相手だとは、どうしても信じられず、さっと顔色を変えたくらいであった。
が、次郎の眼に恨みの色などすこしもなく、取り済ましているが、またとない上機嫌の表情がぴくぴく動いていて、どう見ても今日の見合いの相手であった。
それとわかると、君枝は今日の見合いに、クリームひとつつけて来なかったことがにわかに後悔され、嬉しさと恥かしさで下向くと、地下鉄の回数券が一枚よごれて落ちているのが眼にとまり、今この時これを見たことは、生涯忘れ得ないだろうと、思った。
鶴富組の主人を中心に改札口での挨拶が済むと、一しょに階段を降りて行き、次郎と鶴富組の主人は梅田行きの地下鉄に乗った。