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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《ズラかった信吉(ズラかったしんきち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 頁

青空文庫

自分はそれよりひどい暮しをしている内地人だって、〔十四字伏字〕。

震災のとき、何でえ、〔八字伏字〕! 〔四字伏字〕! ハッハッハと新井の伯父は裏の藪で竹槍の先を油の中で煮ていた。〔十九字伏字〕。だが、大した罰をくったこともきかなかった。

その鮮人に計らず信吉は自分の難儀を助けられたんだ。

次の朝、建物の前へ赤い横旗を張りわたした小さいステーションへとまったとき、あっちからやって来る縁無眼鏡の姿を見ると、信吉は何だか気がさした。

けれども、対手は一向頓着ない風だ。

「やあ」

とむこうから声をかけた。

「きのうは、ありがとうござんした」

「いや」

手にもっていた新聞をひろげながら、

「今日はノボシビリスクだね、シベリアもあと半分だ」

信吉の気がほぐれた。ぶっきら棒に、

「日本語うめえね。俺、ホントに日本人かと思った」

「……日本人じゃないか!」

縁無眼鏡は皮肉に薄笑いした。

「どこで言葉覚えたのけ? 東京かね?」

「ああ」

「勉強したのかね」

「うん」

「大学か?」

その男は黙って煙草ふかしていたが、低い声で、

「旅券もってるか?」

と信吉にきいた。信吉はドキッとした。こいつ――知ってやがんだべか、ズラかって来たのを。