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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《ズラかった信吉(ズラかったしんきち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 頁

青空文庫

――

信吉が働いていた××林業株式会社というのも、たちはそれだった。木材をやすくアルハラの山奥から伐り出し、筏で船まで流して内地へ製紙原料、製箱用材として売り込む。それが商売だ。

去年の秋、××林業株式会社現場行人夫募集の広告を見たとき、自転車屋が潰れてあぶくれていた信吉は、気が動いた。

村じゃ、あぶくれの三男坊なんかにっちもさっちも行くもんじゃなかった。十日に二日ぐらい日雇がある。日雇は三十銭から七十銭どまりだ。それで食うのはこっち持ちだ。

分家も出来ないでふけた兄貴二人が、板の間の火の気のない炉ばたで、ときどき煙管で炉縁をはたきながら額をつき合わしている。

親父は裏の納屋の方でゴトゴトやってる。親父は小心で何かにつけて、兄貴たちを憚っているんだ。

信吉自身は、重苦しい空気を背中にこらえて、切戸の前へころがり、掌の中へかくして、半分吸いのこりのバットを、ふかしていた。

徴兵のがれで嬉しいと思ったのなんか、こうなって見りゃあ糠よろこびだ。――

ええ、行ってやれ!

監獄部屋や蟹工船の話をきいている信吉には、××林業の現場とはどんなところか、不安でないこともなかった。