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プウルのかたわらで

プウルの傍で

中島 敦

線上閱讀中島 敦《プウルの傍で(プウルのかたわらで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,843 字 · 34 頁

青空文庫

二

」と誰かが言った。「よせよ。汚ないだけだよ。」と誰かが答えて、みんなで笑った。奉天を発つ晩は美しい夕方であった。駅前へ集合する時間の少し前、彼は、一番親しかった友達と二人きりで裏通りのレストランにはいって行った。全く美味いビフテキであった。血がたらたらと垂れて、厚さが一寸近くもあったような気がした。レストランを出ると、外はひどく晩い日の暮であった。駅からすぐに拡っている郊外の野原がだだっぴろく、空はまだ明るかった。教師の吹く集合の笛が、がらんとした駅前の広場に悲しげに響いた。

二

誰かプウルの縁を歩いて行くものが小石をとばしたと見えて、ボチャンと小さな音が、彼の足のさきの方で聞えた。と、腕を胸の上に組んで浮んだまま、ぼんやり空に向けていた彼の視線の片隅を、細長い竿の影がとおって行った。ひょいと首を向けて見ると、それは棒高跳のポォルであった。肩の所で袖の切れたユニフォオムを着た、背の高い一人の少年がそれをかついで、プウルの縁伝いに通って行くのである。そのあとから、もう一人、眼鏡をかけた背の低い少年が、これは両手に一つずつ円盤をさげてついて行った。三造は、彼が中学の四年のとき、何かの機会から柄にもなく急に棒高跳の名手になりたいと思い立って、一人で練習をはじめたことを憶い出した。