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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁

青空文庫

首筋は赤黒く、粒々が出ている。齢の頃はよく判らない。

「這入れって、一体どのくらい這入るんだね」

「直ぐだよ、おれの家は。三十メートルほど入って、左側の家だ」

「三十メートルなら、歩いたらどうですか。何時までもごたくを並べてないで」

「歩け? 君はおれに、歩けと命令するのか?」

「命令はしてない。勧めているだけです」

「しかし、それは――」

そこまで言いかけた時、自動扉がひとりでにギイとあいた。それはまるで催促するような音であった。音は決定的に彼の耳に響いた。

『落着け。落着くんだ』

彼はそう念じながら、ポケットから銭入れを取り出した。ふるえる指で百円玉を三つつまみ出して、肩越しに手渡した。

「ついでに聞くがね、この車の番号は何番だい?」

「車のうしろについてるよ。それを見りゃいいだろ」

運転手は金を収めながら、つっけんどんに答えた。

「そうか」

彼は体をずらして車から降り、背後に廻って番号札を見た。自動扉がしまった。Q二〇三九。それを二三度口の中で言ってみて、片側道を自分の家の方向に歩き出した。三十メートルを歩いている間、つまずかないように用心しながら、彼はその番号のことばかり考えていた。