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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁
「とうとう変声期が来たのか」
そう気が付いた時、いくらかの衝動と感慨がありました。衝動とは、向うが変声期にまで成長したことは、ぼくがそれだけ馬齢を重ねたということでしょうか。でも、このような人間関係は、ぼくは好きです。板壁の向うの人生で、顔も姿も知らぬ少年が、それまでに成長した。友達を呼ぶ声だけで、ぼくがひそかにそれを知っている。向うから犯されることなく、こちらからも邪魔することなく、一方交通的に、そこはかとなくつながっている。そんな人間関係を、人間同士の乾いたつながりを、ぼくは嘉しとするんですがねえ。たとえば水族館に行くとします。ガラスの向うには魚たちがそれぞれの姿体で、泳ぎたいやつは泳ぎ、じっとしていたいやつはじっとしている。見物は見物でガラスのこちらから、それをぼんやり眺めている。――そんな関係が、ぼくは割に好きなのです。だからぼくは日頃から、自分に言い聞かせている。自分から動くな。働きかけるな。身を乗り出すな。これが三十何年かかってぼくが身につけた、趣味と言いますか、処世法と言うか、まあそう言ったものですな。しかし現実には、そうそううまくは行きませんね。