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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁
「今月の家賃四千円、すぐさま払うよろし。払えなければトットと出て行くよろし」
そして孫伍風は拳固をピッタリと構え、じりじりと板の間に近づいて来る。たどたどしい日本語がかえって凄味をそえました。
「払うか、払わないか、一体どっちよ!」
「払うよ。払いますよ」
ついに僕は悲鳴に似た声を出した。そしてあわてて部屋にかけこみ、財布の中から千円札四枚をとり出して、孫に手渡しました。すると孫はにやりと笑ってポケットから賃貸借通帳を取出し、それにぽんと印を捺してこちらに寄越した。それを見ると家の借り手は、僕と野呂の二人の連名になっています。野呂も孫の気魄に圧倒されたのか、若干あおざめていました。孫は入って来た時と同じように、全然跫音を立てず、スイスイと庭を出て行きました。跫音を立てないのも、修練のひとつなのでしょう。
「バカにしてやがる」
と僕は呟きました。陳の横暴もさることながら、うかうかと捺印したマヌケな自己に対する嫌悪。それにもう一人この家に野呂というマヌケがいる、そのことのうとましさで、僕は腹の中が真黒になったような気がしたのです。野呂も同じ思いだと見えて、唇を噛んで僕をにらんでいる。