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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁

青空文庫

賞讃説の方は、もっぱら女の方に多いようです。猿沢佐介は風采も一応は立派だし、口もなかなかうまいので、女群から一般に好意を持たれているようでした。その反面、男たちからは、あまりよく思われていなかったかも知れません。

猿沢佐介は、もう四十位になるでしょうか。しかしいつも派手な身なりをしているので、若々しく見えます。手足の皮膚もつやつやしていて、まるで青年みたいです。しかし顔だけは、つやつやと言うより、てらてらと赤く光っているのです。ことに鼻の頭などは、すっかりトマト色になっていました。これは言うまでもなく、酒焼けというやつです。猿沢佐介はおそらく部落きっての飲み手でした。毎晩酒の気を、切らしたことがないという噂でした。家でも飲むし、もちろん外でも飲む。駅近くの飲み屋や屋台で、とぐろを巻いている猿沢の姿を、蟹江はしばしば見かけることがありました。

蟹江四郎が猿沢佐介と口を利き合うようになったのも、駅近くのある飲み屋ででした。その飲み屋の名は『すみれ』というのです。その優雅な名前にも似ず、それは軒も傾いたような、ぼろぼろのきたない居酒屋でした。

蟹江も酒は大好きでした。