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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁
俺が飲むや飲まずの生活をしているのに、あいつは派手に毎晩飲んでいる。わだかまりの感じのひとつは、そういうことでもありました。すなわち、猿沢という男に対する、ぼんやりした隣人的嫉妬。そういう風に表現してもいいでしょう。この世に贅沢している人は他にたくさんいるのに、隣人の猿沢にだけそんな感じを持つなんて、すこし可笑しな話ですが、もともと人間とはそういうものなのでしょう。大きな敵が前面に控えているのに、仲間同士で分裂していがみ合っている、そういう例はよく耳にするところです。人間の感覚というのは、身近なものに対してのみ、反応するものなのかも知れません。しかし無論蟹江のこの感じは、その頃はまだ茫漠としていて、自分でもはっきりととらえがたい程度だったわけです。
猿沢と初めて口を利いたのは、ある寒い冬の夜のことでした。その夜蟹江は『すみれ』の一隅に腰をおろして、ひとりちびちびと焼酎のコップを傾けていたのです。その蟹江の卓の向う側に、毛皮のジャンパーを着込んだ猿沢佐介が、やはり静かに徳利をかたむけていました。この二人はこの店で、それまで度々顔は合わせているのですが、まだ口をきき合ったことは一度もないのでした。