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ひとりのむめいさっか

一人の無名作家

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《一人の無名作家(ひとりのむめいさっか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,127 字 · 3 頁

青空文庫

中学は、石川県の小松中学で、その頃この北陸の片田舎には、文学熱が大いに興っていた。弟の二年先輩、即ち私のクラスには、北村喜八がいて、中学五年の時に『こころの歌』という歌集を出版した。その最初の歌が「二人して緋の帳深くたれこめて十六億の人に背かむ」というのであるから、恐るべきティーン・エージャーであった。

弟たちは、実はその雑誌を菊池寛のところへ送っていたのであるが、菊池がそれを芥川に見せたものらしい。菊池から弟のところへ手紙が来て、芥川も非常に褒めているから、よかったら東京へ出て来ないか、といって来た。それで弟は中学を出るとすぐ上京して、暫く菊池寛のところにごろごろしていたことがある。横光利一なども、一緒だったように覚えている。その後私が東大の物理科へはいることになって、一家は東京へ引き揚げて来た。そして弟も文学青年を卒業して、鳥居竜蔵博士の助手になって、考古学の勉強を始めた。文学修業と、一年ばかり東洋大学で印度哲学をやったのが、役に立ったものと見えて、考古学の方法論の方で、大分いい仕事をした。

それから五年くらいして、私が巴里にいた頃、弟がひょっくり巴里へやって来た。