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いちや
一夜
線上閱讀夏目 漱石《一夜(いちや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,011 字 · 13 頁
ききたくば蜘蛛も聞け」と膝の上なる詩集を読む気もなしに開く。眼は文字の上に落つれども瞳裏に映ずるは詩の国の事か。夢の国の事か。
「百二十間の廻廊があって、百二十個の灯籠をつける。百二十間の廻廊に春の潮が寄せて、百二十個の灯籠が春風にまたたく、朧の中、海の中には大きな華表が浮かばれぬ巨人の化物のごとくに立つ。……」
折から烈しき戸鈴の響がして何者か門口をあける。話し手ははたと話をやめる。残るはちょと居ずまいを直す。誰も這入って来た気色はない。「隣だ」と髯なしが云う。やがて渋蛇の目を開く音がして「また明晩」と若い女の声がする。「必ず」と答えたのは男らしい。三人は無言のまま顔を見合せて微かに笑う。「あれは画じゃない、活きている」「あれを平面につづめればやはり画だ」「しかしあの声は?」「女は藤紫」「男は?」「そうさ」と判じかねて髯が女の方を向く。女は「緋」と賤しむごとく答える。
「百二十間の廻廊に二百三十五枚の額が懸って、その二百三十二枚目の額に画いてある美人の……」
「声は黄色ですか茶色ですか」と女がきく。
「そんな単調な声じゃない。色には直せぬ声じゃ。強いて云えば、ま、あなたのような声かな」