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かじとポチ

一房の葡萄

有島 武郎

線上閱讀有島 武郎《一房の葡萄(かじとポチ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 23,753 字 · 48 頁

青空文庫

あとをふりかえって見ると、二人三人黒い人影がぼくの家の方に走って行くのが見える。ぼくはそれがうれしくって、なおのこと、次の家から次の家へとどなって歩いた。

二十軒ぐらいもそうやってどなって歩いたら、自分の家からずいぶん遠くに来てしまっていた。すこし気味が悪くなってぼくは立ちどまってしまった。そしてもう一度家の方を見た。もう火はだいぶ燃え上がって、そこいらの木や板べいなんかがはっきりと絵にかいたように見えた。風がないので、火はまっすぐに上の方に燃えて、火の子が空の方に高く上がって行った。ぱちぱちという音のほかに、ぱんぱんと鉄砲をうつような音も聞こえていた。立ちどまってみると、ぼくのからだはぶるぶるふるえて、ひざ小僧と下あごとががちがち音を立てるかと思うほどだった。急に家がこいしくなった。おばあさまも、おとうさんも、おかあさんも、妹や弟たちもどうしているだろうと思うと、とてもその先までどなって歩く気にはなれないで、いきなり来た道を夢中で走りだした。走りながらもぼくは燃え上がる火から目をはなさなかった。真暗ななかに、ぼくの家だけがたき火のように明るかった。