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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《一本の花(いっぽんのはな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 頁

青空文庫

「さ」

大平と入れ換わるようにした。

「――どの辺まで行くんです」

「ついそこ――文房具やへ行くの」

「いい天気だから、じゃ私も一緒に行こうかな」

「そう?――」

そこに女中がいた。頭越しに朝子は大きな声で、

「ちょっと」

と幸子を呼んだ。

「大平さんがいらっしゃってよ。ここまで来て」

「何さわいでいるのさ」

幸子が出て来た。

「どうも声がそうらしいと思った」

「大平さんも外お歩きになるんですって。あなたも来ないこと? 少し遠くまで行って見ましょうよ」

「来給え、来給え、本は夜読める」

「本当にいい天気だな」

幸子は、瞳をせばめ、花の終りかけた萩の上の斑らな日光を眺めていたが、

「まあ、二人で行っといで」

と云った。

「外もいいだろうが、障子んなかで本よんでる心持もなかなか今日はわるくない」

大平と連立ち、朝子は暫くごたごたした町並の間を抜け、やがて雑司ケ谷墓地の横へ出た。秋はことに晴れやかな墓地の彼方に、色づいた櫟の梢が空高く連っているのが見えた。線香と菊の香がほんのり彼等の歩いている往来まで漂った。石屋の鑿の音がした。

彼等は、電車通りの文房具屋で買物をし、菓子屋へよってから、ぶらぶら家へ向った。