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さんじゅっさい

三十歳

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《三十歳(さんじゅっさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 頁

青空文庫

私は、矢田津世子に暴力を加えても、と思い決していた。むしろ、同意をもとめて、変にクズレた、ウワズッたヤリトリなどをしたくはなかった。問答無用、と私は考えていたのだ。

食事中は、そのことは翳にも見せず、何やら話していた筈であるが、もともと私たちの話はいつも最も不器用にしか出来ないところへ、そういう下心があっては、それが相手に感づかれずにいるものではない。

下心を知り合って、二人は困りきっていた。私は矢田津世子が私の下心を見ぬいたことを知っていたし、それに対して、色々に心を働かせていることを見抜いていた。

私は矢田津世子と対座するたびに、いつも、鉄の壁のような抵抗を感じていた。彼女も、同じものを私から感じていたであろう。

鉄の壁の抵抗とは、矢田津世子が肉体を拒否しているということではない。その点は、むしろ、アベコベなのだ。

私たちはお互に、肉体以上のものを知り合っていた。肉体は蛇足のようなものであった。

私たちはすでに肉体以上のものを与え合っていた。肉体を拒否するイワレは何もない。肉体から先のものを与え合い、肉体以後の憎しみや蔑みがすぐ始っていたのだ。