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みききよしをおもう
三木清を憶う
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《三木清を憶う(みききよしをおもう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,154 字 · 15 頁
このいと子夫人が病気ではいった病院は、私の住居のすぐ近くにあった。だが彼は、私の方から見舞いに行くまで、そのことを知らせなかった。友人知人に迷惑をかけたくない思いと、自分のことは自分だけでやってのけようとの思いと、両方があったのであろう。もっとも、いと子さんの入院当初、私は一ヶ月ほど上海に行っていて、家には娘と女中きりだった。
上海から帰ってから、私はいと子さんの入院を知り、見舞いに行った。お嬢さんの洋子さんや付添いの人もいた。三木は高円寺の自宅からこの本郷の病院まで、遠いところを毎日通って来て、数時間の看病をした。一昨年の暮から昨年の初にかけた頃で、万事不自由な窮乏な時勢に、食糧を調達し薬剤まで探して来た。所用の都合や病状の如何によっては、どんなにでも私の家を利用してくれるようにと、私は繰り返えし言ったのだが、彼は遂に一夜も私の家に宿泊しなかった。
いと子さんの病気は肝臓癌で、手のつけようがなく、じりじりと重くなっていった。本人はそれを知らず、ひたすら退院の時期を希求していた。その心と肉体とを三木はいたわりつつ、死亡より一週間ばかり前に退院さしてやった。